medetaku_shuushoku


以前企業で人事に関する仕事を任されていた頃の話です。
実際は採用に対して権限を持つ前の段階、私の直属の上司がそれを取り仕切っていた頃、私はそれをアシストする役割でした。
就職活動で一生懸命やる気をアピールする若者達を見ながら、上司とよくその見方について話すことがありましたが、着眼点の面白さはとても勉強になりました。
ある程度は意見することも拒まずに聞いてくれたその上司は、普段はとても穏やかな人で誰からも信頼されるタイプの人でした。
叱ることもありましたが後々それを引きずるような事もなく、必ず改めてチャンスをくれるような人でしたので、その上司の下で見る目を養った経験は大きかったと今でも思います。
ある年、その企業は売り上げが一気に増え事業を拡大、とても羽振りがいい時期に差し掛かりました。
当然ながらスタッフ増員の指示がおり新卒の確保に動きました。
例年の数倍の人数をということでしたが、その頃は志望者もたくさんいましたので、多くの大卒、もしくは高卒見込みの人達が面接に訪れました。
上司も私も、これだけ多くの志望者がいるならきっと将来有望な人材もいるに違いないので、出来る限り深く話しをしてそういう人達を見つけ出そうという気持ちでした。
将来性を感じさせる企業というものは自然と会社内にも活気があり、そこに集うスタッフも、またこれからそこに加わろうと意気込んでいる志望者も何か良い緊張感のような物を漂わせています。
しかし入社するまで気合い満点でも決まってしまうと、ひと安心して気持ちが緩んでしまう人や、自信過剰で個人プレーに走ってしまいがちの人が出てきます。
それらをどう判断するかが上司と私の役割でした。


面接を希望する人達のために、その企業ではキャリアの浅い先輩たちと一緒に研修をともにする機会を設けていました。
就職活動をする人達を招待し基本的な仕事を体験できるので、企業側も学生達もその相性を実感できるいい機会です。
肌に合わないようなら面接を受ける必要はありませんし、企業側もその時点でやる気があるかどうか初歩的な部分は絞り込めるメリットがありました。
数日間私達も同行しましたが、その期間中上司が酒を飲みながら私に聞いたことがあります。
入社希望の人達にもいろいろ将来の考え方があるが、何年でも会社のために働く意志がある者と、逆にある程度の時期がくれば独立を考える者とどちらを優先して採用するかという質問です。
まだ若かった私は冗談混じりに後者の方を採りますと答えました。
理由は特にありませんでしたが、私自身いつか独立したいと考えていたひとりに違いなかったからです。
上司の言い分も後者でした。
しかし理由が思いあたらない私と違い、彼にはきちんとした理屈がありました。
若い頃はいろいろ世間知らずな部分もあるので一概には決め込めないということを前提としての話でしたが、東京でそれなりの規模の企業の場合、いい仕事が出来る優秀な人材ならばキャリアを武器にしてさらにいい会社に移るのはもちろん、独立を考えるほうがむしろ自然だということを言っていました。
永久就職に近いシチュエーションを望む人を否定はしないものの、おそらく勉強心や好奇心という観点で何年か後はスキルに差が出てくるという見方をしていました。
つまりどちらも会社に必要なのは間違いないのですが、独立心を持ったタイプのほうがいい仕事をする意欲が強いという見解でした。
おそらく私よりも長く人事を見てきた経験則がそう言わせていたのでしょうが、一つ間違えば上司自身の人生を否定しかねない見解にどう返事していいものか迷ってしまいました。
なぜなら彼は他の企業でも独立しても十分やれたはず、でも選んだ道は会社に居続けることだったからです。
その理由はわからないままですが、上司は数年後私が会社を辞める時に一つだけ教えてくれました。
いい人材が抜ける穴を埋めるだけの人材を常日頃から育てておくのも自分達の仕事だと、またそういう企業でなければいけないという事でした。